第55章 迷走<参>
「大丈夫!?しっかりして!!死んじゃだめよ!!」
その人は汐の背中を叩いて水を吐き出させようとしているのだろうが、その力が尋常ではなくこのままではそのせいで肺がつぶれてしまいそうに感じた。
汐はせき込みながらも「大丈夫だから・・・!」と声を上げる。すると声の主は焦ったように飛びのいたので、汐は振り返ってその姿をまじまじと見た。
(あれ?この人って・・・)
そこにいたのは、桃色と緑の髪を三つ編みに結び、胸の大きく開いた扇情的な隊服を身に纏った一人の女性だった。
汐はこの女性隊士に見覚えがあった。そう、あの時柱合裁判で見かけた柱の一人。
――恋柱・甘露寺蜜璃がそこに立っていた。
「た、確かあんたは・・・乳柱さん?だっけ?」
汐がそういうと、甘露寺は思い切り前方にずっこけた。丈の短い隊服から覗いた、長い靴下をはいた足が無様に曝け出される。
「違うわよ!私は甘露寺蜜璃。乳柱じゃなくて恋柱です。ちゃんと覚えてね。って、そうじゃなかった!」
甘露寺は慌てたようにそういうと、どこからか手ぬぐい(この時は知らなかったが、西洋の手ぬぐいタオルだった)を出して汐の体を拭き始める。
あまりの早業と女性とは思えない力強さに、汐はなすすべもなくされるがままにされていた。