第55章 迷走<参>
そして汐が訓練場に来なくなってから、五日目の朝。
「・・・何やってんだ、あたし」
誰もいない自室で寝ころびながら、汐はぽつりとつぶやいた。訓練場に行かなくなり、炭治郎と顔を合わせなくなっても、胸の鈍い痛みは消えなかった。
「なんでこんなことになっちゃったのよ・・・」
胸の内を吐き出してみても、痛みは和らぐことはない。それどころか、自分に対しての強い嫌悪感が募るだけだった。
あれほど激しい喧嘩を、炭治郎とするのは初めてだった汐。謝りたいとは心の中で思うものの、どうしていいかわからず悶々とした日々を送っていた。
(そういえば、この屋敷の裏には山があるって聞いたことがあったわね)
汐はそのままゆっくり起き上がると、音を立てないようにして窓からそっと外に出た。空は腹立たしい程青く澄み切っており、沈んだ汐の気持ちとはまるで正反対だった。
そのまま山へ行くと、いろいろな草花が生い茂り水の音も聞こえる。時々獣の足跡のようなものも見かけ、そこそこ豊かな場所だとうかがえる。
汐が少し歩いていくと、滝があるのが見えた。狭霧山で汐が割った滝よりは小さいが、それでもそこそこの大きさはあるようだ。
汐は大きく息を吸うと、滝つぼに向かって思い切り叫んだ。