第55章 迷走<参>
「汐!!待ってくれ!!」
炭治郎は慌ててアオイたちに頭を下げると、汐の後を追って訓練場を後にする。残されたアオイは呆然とし、三人娘はおろおろと二人が去った方向を見つめていた。
「汐!待てって!!」
炭治郎は走り去る汐を追い、彼女の右腕を掴んで引き留めた。
「いったいどうしたんだよ。何があったんだ?」
炭治郎は腕を掴む手に力を込めた。汐は顔をゆがませただけで何も答えない。
「それにお前から変な匂いがするんだ。怒っているような悔しがっているような。だから俺、お前が心配で――」
「あんたに心配される筋合いなんてない!放っておいてよ!!」
汐は、炭治郎の手を無理やり振り払った。心の中の鈍い痛みが、怒りと苛立ちに変わっていく。
「大体匂い匂いっていうけれど、人の匂いを勝手に嗅ぐのってどれだけ失礼かわかってんの?誰にだって知られたくない感情の一つや二つあるのに、あんたってそういうところ無神経よね。今まで黙ってたけど、あんたにそういうところ本当に嫌。匂いで分かるからって、人の心の全てまで分かってると思い込むなんて、ちゃんちゃら可笑しいわよ!」
今までにない程の汐の敵意に満ちた言葉に、流石の炭治郎もカチンときたのか顔をしかめて言い返した。
「なんだよその言い方は。大体お前こそ人の話も聞かないで一方的に怒鳴りつけて何なんだ!」
炭治郎にしては珍しく棘のある言葉が汐に刺さり、彼女は目を剥いたもののすぐに怒りに顔をゆがませた。