第55章 迷走<参>
その光景が目に入った瞬間、汐の心臓がかつてない程大きく跳ねあがった。
全身が震えたかと思うと、急に体が冷たくなってきた。
(なんで、しのぶさんが炭治郎と一緒にいるの・・・!?)
汐は気配を殺して風上へと移動した。風下に行けば匂いで炭治郎に気づかれてしまうと思ったからだ。
(何を・・・何を話しているんだろう・・・ここからじゃ聞こえないわ)
汐の位置から二人の会話は聞こえない。けれど心なしか、炭治郎が赤く染まっているように見えた。
それを見た瞬間、汐の胸に鈍い痛みが走った。
(痛っ・・・!)
汐は顔をゆがめて胸を抑えた。しかしそれでも鈍い痛みはずきずきと汐の胸から離れず息も苦しくなる。
(なんでだろ・・・二人が一緒にいるところなんて、見たくない・・・)
とても瞑想などできるような状態ではないと判断した汐は、そのまま背を向け屋敷の中へ戻っていった。
「炭治郎君、頑張ってくださいね。どうか禰豆子さんを守り抜いてね。自分の代わりに君が頑張ってくれると思うと、私は安心する。気持ちが楽になる」
冷たい風がしのぶの髪を揺らし、炭治郎はその姿を黙って見つめた。そんな彼に、しのぶは全集中の呼吸が止まっていると指摘する。
慌てる炭治郎にしのぶは微笑むと、音もなく姿を消した。先ほど吐き出された彼女の本音に少しだけ触れた炭治郎は、改めて頑張ろうと決意する。
(そういえば、汐はどうしたんだろう。一緒に瞑想するって約束したのにな)
炭治郎は汐が来ないことが少し気になったが、待っていればきっと来るだろうと思い瞑想をつづけた。
しかしその夜は、汐が炭治郎の所にに来ることはなかった。