第54章 迷走<弐>
「おい騒音娘。時間がもったいねえから単刀直入に済ませてもらう」
宇髄は面倒くさそうにそういうと、突然汐に向かって何かを投げ渡した。慌てて受け取ると、それはつまみのような不可思議な細工がされた首輪のようなものだった。
肌に触れる部分は、伸縮性のある布のようなものでできていた。
「何これ?」
「見りゃわかるだろ?首輪だ。こいつを付けると声帯の震えを感知し、ある程度の波になると伸縮して声を強制的に抑える代物だ。お前の力をむやみに垂れ流さないための制御装置のようなもんだ」
「何よそれ。まるで犬じゃないの」
「当り前だ。お前は鬼殺隊の犬なんだよ。あの時の不死川みたいなことを堅気の人間に起こしてみろ。お前は責任をとれるのか?」
彼の言葉に汐は息を詰まらせた。炭治郎の声がなければあのまま人一人の命を奪っていたであろうあのことに、表情が引きつった。
「まあ、お前がそれを付けるかつけないかは俺は知らん。あくまでも一つの選択肢ってわけだ。それからもう一つ。俺が分かったワダツミの子についての事だ」
宇髄はそういうと、真剣な面持ちで汐を見た。その眼に汐は思わず体を震わせる。
「お前、よく男に間違われるだろ?お前が不精なのも理由の一つだろうが、ワダツミの子について調べていてわかったことだ。耳をかっぽじってよく聞け」
そう言って彼が語りだした内容に、汐は思わず震えた。