第7章 慈しみと殺意の間<壱>
「わああ!!!」
思わず悲鳴を上げて立ち上がろうとするが、足元がふらつき座り込んでしまう。そんな彼女に、天狗の男はあきれたようにため息をついた。
「そのような状態で動けるものか。お前の体のことは、お前自身で管理しなければならない。そんなこともわからんのか」
そういって男は懐から、筍の皮に包まれたおにぎりと竹筒の水筒を差し出した。それが目に入った瞬間、汐の腹の虫が盛大に鳴いた。
「食べなさい」
その言葉を聞くな否や、汐は引っ手繰るようにおにぎりを受け取り口に入れた。塩だけの質素なものだったが、それでも汐にとっては何よりもありがたいごちそうだった。
大きめのおにぎりを全て平らげ、水を飲み干すと、汐の心にもようやく余裕が出てきた。そして、目の前の男を見てはっと思い出す。
「天狗のお面・・・。もしかしてあなたが、鱗滝さん・・・?」
「如何にも。儂が鱗滝左近次だ。大海原玄海の弟子はお前で間違いないな?」
その言葉に汐はうなずき、自分の名を名乗った。すると鱗滝は、汐の右腰に差してある刀に目を付けた。
そこから微かに漂う鬼の匂いに、彼は小さく唸る。
「儂はお前の父親からお前を預かるように言われている。だが、鬼殺の剣士になりたいというのなら一つ問う。汐。お前は何故鬼殺の剣士を目指す?」
鱗滝の問いかけに、汐は迷いなく答えた。
「みんなの敵を取る。おやっさんを鬼に変え、みんなを傷つけ苦しめた連中を、あたしは絶対に許さない。何があっても、必ずその報いを受けさせてやる」
そんな汐を面越しに見ていた鱗滝は、彼女の匂いを感じ僅かに眉をひそめた。