第54章 迷走<弐>
「カナヲ。ちょっと面貸してほしいんだけど」
縁側にたたずむカナヲに、汐は声をかけた。カナヲは相変わらず張り付けたような笑みを浮かべて汐を見て首を傾げた。
その仕草から汐の言っている言葉の意味が分からなかったのかと思い、汐は言葉を変えてもう一度言ってみることにした。
「え、えっと。あんたに聞きたいことがあるから付き合ってほしいんだけど」
汐がそういうと、カナヲは徐に隊服のポケットから何かを取り出した。それは、漢字で表と裏と書かれた一枚の銅貨。
カナヲはそれを親指で弾いて放り投げると、手の甲に受け止めた。
怪訝そうな顔をする汐の前で、カナヲは手を開いて銅貨を見る。そしてそのまま一言も発することなくその場を立ち去ってしまった。
「・・・へ?」
一人残された汐は、呆然とカナヲの去った方角を見つめていたが、自分が無視をされたと知ったとたん怒りが込み上がってきた。
(な、な、な、ぬわんじゃありゃああああああ!!!!何なのよあの態度!これはあれか!?『私の髪の毛にすら触れないような弱者に話すことはない!』ってことか!?くそう、絶対に一泡吹かせてやる!)
そう意気込んで再び勝負を挑んだものの、やはり完膚なきまでに叩きのめされてしまい、汐は一人縁側に座っていた。