第54章 迷走<弐>
それから五日間。汐達はカナヲに負け続ける日が続いた。
この中で一番反射神経に優れている善逸でさえもカナヲの髪の毛一本すら触れなかった。
負けることに慣れていない伊之助はもちろん、善逸も早々に心が折れたのかあきらめる体制に入り、ついには訓練場に来なくなってしまった。
「あなたたちだけなの!?信じられない、あの人たち!!」
善逸と伊之助が来ないと知るや、アオイは声を荒げて二人に詰め寄った。そんな彼女に炭治郎は申し訳なさそうに謝り、明日は必ず連れてくるという。
しかしアオイは首を横に振ると、呆れた様子で言った。
「いいえ!あの二人にはもう構う必要ありません。あなたたちも、来たくないなら来なくていいですからね」
アオイの言葉に炭治郎は俯くが、汐は目を剥いてアオイに詰め寄った。
「ちょっと。あの馬鹿二人はともかく、今ここに来ているあたしたちに向かってその言い草はないんじゃないの?」
「止めろ汐。ことを荒げるな」
アオイにつかみかかろうとする汐を、炭治郎が制止する。汐自身も我慢の限界が来ていることを、炭治郎は悟っていた。
そして彼は決心する。二人の分まで頑張って、勝ち方を教えてあげよう。汐と一緒ならきっと大丈夫さ。
そう決心してからさらに十日。結局カナヲには一度も勝てなかった。
汐は悔しさと屈辱に身を潰されそうになったが、それ以上にカナヲに負けたくないという気持ちが勝り彼女を訓練場へ足を運ばせる原動力になっていた。