第53章 迷走<壱>
「訳わかんねぇコト言ってんじゃネーヨ!!自分より体小さい奴に負けると、心折れるんダヨ!!」
「やだ可哀想ッ!!伊之助、女の子と仲良くしたこと無いんだろ!山育ちだもんね、遅れてるはずだわ!あー、可哀想!!」
しかし善逸は伊之助の言葉を一掃し、有ろうことかさらに挑発までする始末。これには伊之助の堪忍袋の緒は完全に切れてしまった。
「はああ゙ーーん!?俺は子供の雌(メス)踏んだことあるもんね!!」
「最低だよそれは!!ヤダヤダヤダ!!それじゃモテないわ!!」
「はああ゛ーー!?女ぐらい何人でも持てるわ!!」
その会話は訓練場の中にいた女性たちにも筒抜けで、アオイは拳を振るわせながら聞いていた。
だが、突如汐がゆらりとした動きで立ち上がった。
「汐さん?」
汐のただならぬ雰囲気に気づいたすみが、怯えた様子で声をかける。だが、汐はそのまま滑るように扉へ向かうと、振り返らずに淡々と答えた。
「あたしが出て行ったら全身全霊で耳を塞いで。そこのカナヲって子もね。そうじゃないと、どうなっても知らないから・・・」
それだけを告げると、汐はそのまま訓練場を後にした。