第53章 迷走<壱>
それからさらに数日後。
汐は陰鬱な表情で一人訓練場で男たちが来るのを待っていた。彼女の他にはアオイ、三人娘、そしてカナヲが彼等の到着を待っていた。
やがて扉が開くと、汐以上に陰鬱な表情をした炭治郎と伊之助と、怯えて涙を流す善逸の三人が入ってきた。
四人はアオイの前に座ると、彼女は善逸の為に訓練の説明を始めた。
身体をほぐす訓練、湯飲みと薬湯を使った反射訓練、鬼ごっこ形式の全身訓練を口頭で説明した後、伊之助、炭治郎、汐がそれを実際に行いさらに分かりやすく説明する。
(伊之助は身体を大きく逸らされて涙を流しながら呻き、炭治郎はカナヲに薬湯をかけられずぶ濡れに。汐はカナヲを捕まえよとして足をもつれさせ顔面から転んでしまった)
陰鬱な表情で俯く三人をしり目に、善逸は唐突に手を上げた。アオイは何かわからないことがあるのかと尋ねると、善逸はそれを否定し立ち上がった。
そして驚くほど低い声で「来い、野郎共」とだけ言った。
困惑する炭治郎と申し出を断る伊之助だが、
「いいから来いって言ってんだろうがァァァ!!!」
善逸の怒声が空気を震わせ部屋中に響き渡る。そのあまりの大声にカナヲ以外の全員がびくりと体を震わせた。
「来いコラァ!!クソ共が!!ゴミ共が!!」
善逸は炭治郎と伊之助の襟首を掴むと、恐るべき力で二人を引きずりながら去っていった。
残された女性たちは呆然としていたが、汐だけは「嫌な予感しかしないわ」と顔を引き攣らせて言った。
その予感は的中し、外から耳をつんざくような善逸の大声が聞こえてきた。