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【鬼滅の刃】ウタカタノ花

第52章 ワダツミの子<肆>



その夜、汐は夢を見ていた。濃い霧がかかったような真白な空間に、声だけが響く。

――・・・ワダツミの子。あらゆるものに影響を及ぼす声を持つ、青髪の少女。なかなかに興味深い話でした。

――話だけを聞くと御伽噺だろう?俺もそう思っていた。こいつに出会うまではな。

――ですが、貴方がその地位を捨ててまで彼女を守りたい理由は、それだけではないでしょう?

――ああ、そうだ。俺にとってこいつはもう単なる小娘じゃねえ。命より大事なもの、家族って奴かな

霧の中で聞こえてくる声は、聞き覚えのあるようなそうでないような、不思議な響きを放っていた。

――ありがとうよ。いい男だな、お前。道理であんな別嬪を捕まえられるわけだぜ。俺は男なんざ滅多に褒めえねえんだが、お前だけは別のようだ。

――ははは、貴方にそう言っていただけるとは冥利に尽きます。

――そうか。もしもお前さえよければ、また一杯付き合わねえか?

――それはいい。私も、もっともっとあなたの話が聞きたいと思っていたところです


霧が深くなり、二つの声が遠ざかっていく。

真夜中、汐は唐突に目を覚ました。夢を見ていたのは確かだが、どんな夢だったのか思い出せない。

ただ、汐の眼から流れ落ちる涙が隙間から洩れる月明かりで微かに光った。
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