第52章 ワダツミの子<肆>
「あああの時の!って、ええ!?あんた生きてたの!?これから死ぬ奴の常套句をああも高らかに宣言したくせに!?」
「お前には人の心がないのか冷血娘!」
「誰が冷血娘よ!人の事オカマ呼ばわりしたこと忘れてないんだからね!?」
「今の今まで俺の名前すら忘れていたくせに、そこは覚えてるんだな!?」
このままでは汐と村田の不毛すぎる争いがおこることを危惧した炭治郎は、慌てて汐を落ち着かせた。
「村田さん、大丈夫だったんですか?それに、その手の怪我は・・・」
「これはただの突き指だよ。もっとも、体が溶ける寸前までいったけどな」
そう言って村田は少しひきつった笑みを浮かべた。
「ところで、この猪はさっきから静かだけどどうしたんだ?」
「まあ、いろいろあって・・・、そっとしておいてください」
「だってこいつが元気ないなんて、正直気味が悪いよ」
炭治郎と村田がそんな会話をしていると、善逸が徐に口を開いた。
「炭治郎、汐ちゃん。その人誰?」
善逸の言葉に、汐は初めて二人が面識がないことを知った。
「那田蜘蛛山で一緒に戦った村田さんだ」
「村田だ。よろしく」
村田はそう言って善逸を見たが、彼の手が異様に短いことに気が付いた。
「蜘蛛になりかけて、今も腕と足が短いままで・・・」
「だからこの薬が必要なんです!」
アオイが追加の薬を善逸の前に差し出しながらそういうと、彼は泣きながら再び叫び出した。