第52章 ワダツミの子<肆>
それからというもの。汐達は傷を癒すために蝶屋敷にとどまることになった。
だが、その期間は彼らにとって地獄そのものだった。
汐は生まれて初めて経験する骨折の痛みに呻き、炭治郎も痛みに耐え、禰豆子はひたすら眠り続け、善逸は相も変わらずうるさく騒ぎ続けその度に二つ結びの少女神崎アオイにどやされ、伊之助は落ち込んだままだった。
そして、四人が搬送されてから数日後。
「イィイイーーーヤアアーーーー!これ以上飲めないよぉ!!」
アオイから薬を渡された善逸は、涙を流しながら大声で叫んだ。そんな彼に、アオイは呆れかえりながら言う。
「毎日毎日同じことを。善逸さんが最も重傷なんです!早く薬飲んでください!」
「だって、だってこれ!!ものすごく苦いんだよ!?ものすごく不味いんだよ!?こんなの飲んだら舌がおかしくなるってェ!!」
まるで幼子のように泣きわめく善逸の口を、不意に誰かがむんずとつかんだ。善逸が目を見開くと、そこには恐ろしい形相で自分を睨む汐の姿があった。
「喧しいのよ、毎日毎日。九官鳥かてめーは。つべこべ言わないでさっさと薬を飲みなさいよスカタン!!」
そう言って汐は善逸の口を無理やりこじ開けて流し込もうとするが、そばにいた髪を下ろした少女きよが慌てて止める。
善逸も汐の恐ろしい音に根負けしてしぶしぶ薬をあおり顔をしかめた。