第7章 慈しみと殺意の間<壱>
やがて鬼の体がすべて塵と消えた頃、汐は空を見上げた。もう何度見上げたかわからない夜の空。
あの忌まわしい日からもうじきひと月。養父の知人である鱗滝左近次がいる狭霧山を目指して、汐は人伝いに歩き続けていた。
富岡義勇という鬼殺剣士からおおよその場所は聞いていたものの、その場所というのが汐の住んでいた村からは恐ろしいほどの距離があった。
手元に残った僅かな金もすでに底をついてしまい、もう歩くしか方法がなかった。
しかも、夜間や悪天候時には鬼の襲撃を受け、日の出ている間は体を休めようにも、あの日の光景が悪夢となって甦りほとんど眠ることもできなかった。
それでも、汐の体を突き動かすのは、鬼に対しての殺意と不甲斐ない自分自身への怒りと憎しみ。
いつしかその風貌は、人を脅かすはずの鬼さえも、恐怖させるものと成り果てていた。
夜が明け、太陽がその姿を現せば、陽光に弱い鬼は姿を見せることはない。だが、眠れば悪夢につかまる。汐は重くなった身体を必死に動かし先へ進む。
だが、やはり体には限界が来ていたのだろう。不意に視界がぐらりと傾き、視界が暗転した。