第51章 ワダツミの子<参>
「だけど、俺はちゃんとわかってる。汐が強いこと。そして、自分の力をきちんと正しく使えることを俺は信じてる。だから、あんまり思いつめないでくれ。何かあったら、俺を頼ってくれ。俺だけじゃない。禰豆子も善逸も伊之助もいるんだ。お前は一人じゃない。それだけは忘れないでほしい」
って、ありがちなことばでごめんな、と困ったように笑う炭治郎に、汐は首を横に振った。
「ううん、そんなことないわ。あたしにとってあんたの言葉がどれだけありがたいか。さっきも、わけがわからなくなりそうだった時、頭に浮かんだのはあんたの顔だった。あんたがいなかったら、あたしはもうとっくにおかしくなってた。あんたがいてくれから、あたしはあたしでいることができたの。だから、本当にありがとう。あたし、あんたがいてくれて本当に良かった」
汐は心の中の声をすべて出しながら炭治郎を見つめた。夕暮れの海のような眼が微かに揺れる。
頬が微かに赤みが掛かっているのは、日の光が当たっているせいだろう。
汐の表情を見て、炭治郎は安心したように笑った。思いつめた匂いもなりを潜め、彼女の本来の匂いが戻ってくる。
と、思ったのだが、炭治郎の鼻は汐から今までにない匂いを感じた。
微かに甘く、若い果実のような不思議な匂い。