第51章 ワダツミの子<参>
「・・・村が襲われたのはあたしがワダツミの子で、その力を恐れた鬼舞辻があたしを消すために村を襲った。そして、絹はあたしと間違われて殺された。そう考えてしまえば全部つじつまが合う。考えちゃいけないっていうのはわかっているはずなのに、どうしてもそう思っちゃうの」
汐はぎゅっと拳を握り体を震わせた。炭治郎はそんな彼女を黙って見つめる。
「それに、あたしがもう少し早く力のことを知っていれば、あんたも禰豆子も傷つけずに済んだかもしれない。お館様にはああも言ったけれど、もしもあたしのせいでまた誰かが死んだり傷ついたりするのがものすごく怖いの!」
最後の言葉は殆ど叫ぶような痛々しい声だった。
今まで何度か弱音を吐く汐は見てきたが、これほど弱弱しい汐を見るのはあの時、禰豆子を手にかけようとして踏みとどまったあの日以来だった。
炭治郎は黙って汐の話を聞いていたが、不意にそっと彼女の手を取った。
「汐。少しきついことを言うかもしれないけれど、過ぎた時間はもう戻らない。下を見てしまえばきりがない。失っても、失っても生きていくしかないんだ」
そう言って汐を見つめる彼の声は、とても優しくとても悲しいものだった。炭治郎も家族を失い、妹である禰豆子も鬼にされ、絶望の中をさまよった。
だからこそ、彼は同じくたくさんのものを失った汐を放っておけなかった。