第50章 ワダツミの子<弐>(一部閲覧注意表現あり)
「それより炭治郎、汐ちゃんはどうしたんだよ?さっきから姿が見えないけれど、お前と一緒にいたんじゃないのか?」
善逸が訪ねると、炭治郎の表情が微かに曇る。それをみて善逸の顔が少し青ざめた。
「ああ違う。汐は無事だ。脱水症状がひどいみたいで別室にいるよ。でも、何だか様子がおかしかったんだよな。さっきも嗅いだことのない匂いがしたし・・・」
目を伏せる炭治郎に、善逸は彼の音が少し変化していることに気づいた。けれどそれが何なのか、その時の彼にはわからなかった。
用意されたベッドに横たわりながら、炭治郎は先ほどのことを思い出していた。
柱達の前で、青い髪を揺らしながら歌を奏でる汐。それがあまりにも神々しくて、人を通り越した女神に見えた。
その姿が瞼の裏に焼き付いてしまい、目を閉じても汐の事ばかり考えてしまう。
ワダツミの子。汐がもつ特殊な声。新しい情報ばかりで炭治郎の頭は混乱寸前だった。
自分がこのような状態なのだ。当事者である汐はどうだろう。頭が追いついていっていないのではないか。
(汐、大丈夫かな・・・また悩んでいたりしないかな)
それと同時に炭治郎は思った。普段は強気でも、繊細なところがあることを、炭治郎は知っていたからだ。
(よし!)
炭治郎は痛む体を起こしてそっと病室を出た。が、出たところで一人の看護師の少女に見つかってしまう。
先程善逸のそばにいた看護師の少女とは別人で、髪を三つ編みににしている少女だ。
「あ、駄目ですよ炭治郎さん!戻ってください」
「ご、ごめん。でも、どうしても会いたい人がいるんだ。なんでかはわからないけれど、今会わなくちゃいけない気がするんだ。だから、お願いします!汐の部屋を教えてください!」
炭治郎の真剣な声と眼差しが、少女の小さな瞳に静かに映った。