第50章 ワダツミの子<弐>(一部閲覧注意表現あり)
その少女に炭治郎は見覚えがあった。最終選別で残っていた合格者の一人だ。だが、昨夜彼女に踏んづけられたことは覚えていない様だ。
「継子ってのは柱が育てる隊士だよ。相当才能があって優秀じゃないと選ばれない。女の子なのにすげえよなぁ」
炭治郎は呆然と少女、カナヲの姿を見つめている。
汐はもうろうとする意識の中うっすらと目を開けた。そしてカナヲの姿を見た瞬間。何とも言えないような不思議な感覚を覚えた。
(なんでだろう・・・。なんとなくだけどこの子、あたしにとって脅威になりそうな気がする・・・)
何故そんな風に感じたのか、その時の汐は知る由もなかった。
禰豆子を背負った隠がカナヲに駆け寄り、しのぶの言いつけによりここに来たことを告げる。
「お屋敷に上がってもよろしいでしょうか?」
しかしカナヲはニコニコとほほ笑むだけで一切言葉を発しようとしない。隠が何度か確認しても、彼女は微笑むだけだった。
(なんだか心ここにあらずって感じ。まるで人形みたい)
汐がぼんやりとそんなことを思っていると、突然背後から別の声が聞こえてきた。
「どなたですか!?」
いきなりの出来事に、カナヲ以外の全員が飛び上がる。振り返ると、そこには髪を二つに結んだ少女が救急箱を抱えて立っていた。
慌てふためく隠達を見て、少女はすべてを察したらしく屋敷へ促した。
「どうぞ、こちらへ」
「ありがとうございます。後、よろしければ洗い場をお貸しいただけないでしょうか?」
禰豆子を背負った隠の言葉に、少女はふんどし姿で涙目の隠を一瞥すると、「わかりました」とだけ答え、足早に屋敷へ案内する。
負ぶさられながら、炭治郎は振り返ってカナヲの姿を見つめ、そんな炭治郎を汐はなぜか睨みつけた。
汐から漂う謎の匂いに、その時の彼は気が付くことはなかった。