第50章 ワダツミの子<弐>(一部閲覧注意表現あり)
その言葉に炭治郎は耳を疑った。鬼殺隊当主である彼の口から出てきたのは、鬼である珠世の名前。
なぜ彼が珠世の名を知っているのか。炭治郎は混乱しながらも声を上げた。
「ちょっと待って!!今、今・・・珠世さんの名前が・・・」
だが、炭治郎が言葉を発する前に禰豆子を背負った隠が炭治郎を殴りつけた。
「あんたもう喋んないで!!あんたのせいで怒られたでしょうが!!」
「漏らすかと思ったわ!柱すげぇ怖いんだぞ!!!」
「絶対許さないからね!!」
「絶対許さないからな!! 絶対に許さねぇ」
「謝れ!!」
「謝れよ謝れーーーーーっ!!」
隠達があまりにも炭治郎を責め立てるので、彼はちいさく「すみません」と謝った。
「お前ほんといい加減にしろよな。あいつみたいにおとなしくしろよ」
炭治郎は汐を背負った隠をみた。確かに汐は、先ほどまでのことが嘘のようにおとなしくぶら下がっていた。
だが、汐が突然小さな声で何かを訴えた。隠が何事かと耳を傾けると――
「ぎ・・・」
「ぎ?」
「ぎ・・・・ぎ・も゛ぢ わ゛る゛い゛・・・」
まるでカエルをひゃっぺん潰したような声が漏れ、その顔はまっさをお通り越してどす黒くなっていた。
そんな彼女を見て、今度は隠が青ざめる。
「さっきの、きんちょうが・・・いまになって・・・もう・・・だめ・・・うぶっ・・・」
「おいやめろ!それだけはやめろ!!頼む、頼むから耐えてくれ!!」
しかし隠の必死の願いもむなしく、汐の中の何かが決壊した。
「ヴォエエエエエーーー!!!」
「ア゛ッーーーーー!!!!!」
汐のうめき声と、隠のこの世のものとは思えない程の絶叫があたりに木霊した。