第49章 ワダツミの子<壱>
「汐。君の歌、いや、声と言った方がいいかな。君はあらゆる波の高さの声を出すことができ、人や鬼に影響を与えるんだ。鬼舞辻が君を狙った理由はおそらく君がワダツミの子であるからだろう。鬼にも影響を与える声の力を、鬼舞辻が放っておくはずがないからね」
その言葉に汐の背筋にうすら寒いものが走る。
浅草で襲撃されたとき、矢琶羽と朱紗丸が声帯ごと汐の頸を狙ってきた理由が今わかったからだ。
「鬼舞辻は汐の力を恐れている。それはすなわち、我々鬼殺隊にとっては大きな戦力になると言えるだろう。けれど、大きな力は使い方を間違えてしまえば大変なことになってしまう。それはわかるね?」
汐は耀哉の顔を見てしっかりとうなずいた。
殺意にとらわれ、危うく一人の命を奪うことになってしまいそうになったことを思い出す。
「炭治郎と禰豆子と同様、君の力を快く思わないものもいるだろう。君の力はまだまだ未知数、謎が多い。だからこそ彼らと同様、君も証明しなければいけないよ。君が本当に大切な人を守りたいと思うなら、まずは自分自身をしっかり知ること。そして君にとって一番大事なものを決して忘れてはいけないよ」
そう言って耀哉は炭治郎と禰豆子を交互に見た。汐もつられるようにして炭治郎を見ると、もう一度耀哉を見つめ口を開いた。
「あたしは人を傷つけ貶める鬼を許さない。大切な人をこれ以上失わないためにも、戦(うた)い続けます。それが、あたしができる精いっぱいだから」
汐の決意に満ちた眼が耀哉を見据え、彼は安心したように目を細めた。
「さて、これで汐の話も終わり。二人とも下がっていいよ。さて、そろそろ柱合会議を始めようか」