第48章 柱合裁判<肆>
「禰豆子!!」
「大丈夫!!」
炭治郎が叫ぶと同時に、空気を切り裂くような声が響いた。驚いて振り返ると、同じく伊黒の拘束を解いた汐が猿轡を外し炭治郎に視線を向けていた。
「大丈夫!!禰豆子なら、大丈夫!!大丈夫、大丈夫!!」
汐はまるで呪文のように同じ言葉を繰り返していた。だが、その顔は引きつり、手は震えている。でも、炭治郎は確信した。
汐は禰豆子を信じている。心の底から。けれど、炭治郎は妙な感覚を一瞬覚えた。
――昔、誰かにも同じようなことを言われたような・・・
一方汐も自分の口から出た言葉に少なからず驚いていた。何の保証も確証もないはずなのに、禰豆子は絶対に誰も傷つけないという確信が胸の中にあったのだ。
そして彼女も、妙な感覚を一瞬だが覚えていた。
――誰かにも、同じようなことを言ったような・・・
二人の言葉は禰豆子の耳に届いていた。禰豆子の中に、在りし日の記憶がよみがえる。
雪の中、自分を守ろうとする実の兄、炭治郎。食事の香りが漂う台所に立つ母と、そばに座り自分を慈しみの眼で見る父。
――人間はみなお前の家族だ。人間を守れ・・・
花が舞い、無邪気に駆けまわる弟と妹たち。自分に手を差し伸べる兄。そして、自分の頬にそっと触れる、誰かの手。
――人は、守り、助けるもの。傷つけない。絶対に、傷つけない・・・!
禰豆子はしばらく不死川を睨みつけていたが――
――その顔を、血まみれの腕からそむけた。