第48章 柱合裁判<肆>
「オイ鬼、飯の時間だぞ、喰らいつけ!!」
箱の中の禰豆子の鬼の気配が強まり、かなり苦しんでいるのが汐にも伝わってくる。そのあまりのむごさに、汐は怒りのあまり猿轡を思い切りかみしめた。
そのせいか、白い布が微かに赤く染まる。
「無理することはねェ。お前の本性を出せばいい。俺がここで叩ききってやる」
(そんなことをしてみなさいよ。そうしたら今度は、全身骨も残さず吹き飛ばしてやるから・・・!)
汐の胸の中に再び殺意が沸き上がってくるが、その匂いを感じた炭治郎が眼でそれはだめだと訴える。
あのような恐ろしい感情を、汐に抱かせたくはない。この怒りは、自分だけで十分だ、と。
「不死川、日なたでは駄目だ。日陰に行かねば鬼は出てこない」
伊黒が淡々と指摘すると、不死川はいったん言葉を切り、口を開いた。
「お館様、失礼|仕《つかまつ》る」
言うが早いか、不死川は禰豆子の入った箱を持ったまま、眼にもとまらぬ速さで飛び上がり屋敷の中へ上がった。
そして箱を乱暴に投げ捨て、再びその刃を突き刺した。
「禰豆子ォ!やめろぉーーーーーっ!!」
炭治郎が飛び出そうとするが、伊黒がその背に肘を押し当て押さえつける。もちろん、汐を片手で押さえつけたままだ。
息ができず苦しむ炭治郎をみて、汐も必死で拘束から逃れようと身をよじった。だが、先ほどよりもきつく縛り付けられた両腕と猿轡が食い込み、痛みが走る。
「出て来い鬼ィィ、お前の大好きな人間の血だァ!!」
それから不死川は禰豆子をもう一度刺すと、刀ではこの戸を乱暴にこじ開けた。すると、箱の中から体の大きさを元に戻しつつ禰豆子が立ち上がる。
身体は刺されたせいで血に塗れ、苦しそうに息をつく禰豆子。口枷からあふれ出ている涎が、彼女が飢餓状態であることを物語っていた。