第47章 柱合裁判<参>
汐の口が再び開いたとき、異変が起きた。刀を持った不死川の腕が震えながら動き出し、自分の頸にその切っ先を押し当てたのだ。
それが彼の意思ではないことは、驚愕の表情から見て取れた。必死で刀を首から離そうとするが、刀はじりじりと頸へ向かっていく。
「伊黒!!そいつの口を塞げ!!」
異変に気付いた宇随が声を上げ、木の上にいた伊黒はすぐさま汐の下におり口に布を咥えさせる。しかしそれでも不死川の手は止まらない。
だが、その刃が頸へ食い込む前に、炭治郎の声が響いた。
「止めろ汐!!それ以上はだめだ!!」
炭治郎の声が耳に入った瞬間、汐の体が強張る。それと同時に不死川の刀が手から離れ、砂利の上に転がった。
その隙に伊黒は汐の両手を拘束するが、汐はぐったりと頭をたれたまま抵抗はしなかった。
(なんだこいつは・・・?拘束具を引き千切ったこともそうだが、先ほど不死川の身に起こったこと。あれは本当に人間の為せる業なのか?こいつは本当に、人間なのか?)
ぐったりとしたまま動かない汐を、伊黒はおぞましいものを見るような眼で見据えていた。
一方、不死川は荒い息をしながら汐を睨みつけながら再び刀をとった。
「どけェ、伊黒。何をされたのかはわからねえが、ここまでコケにされたのは初めてだァ!!鬼もろともぶっ殺してやる!!」
そう叫んで刀を振り上げようとした、その時だった。
「「お館様のお成です!!」」
最終選別の時に見た少女たちとよく似た顔立ちの二人の少女が声を上げると、奥の襖がゆっくりと開いた。
その奥から彼女たちとよく似た髪形をした一人の男性が歩いてくる。
「よく来たね。私のかわいい剣士(こども)達」
ゆったりした声で言葉を紡ぐ彼に、汐と炭治郎の視線はくぎ付けになった。顔には不気味な色をした痣とも傷とも見て取れないものが広がっている。
彼こそが、鬼殺隊の現当主を務める【産屋敷耀哉】であり、汐と炭治郎をここへ呼んだ張本人だ。