第46章 柱合会議<弐>
「鬼を連れた馬鹿隊員てのはそいつかィ?一体全体どういうつもりだァ?」
全身に無数の傷があるその男は、鋭いという言葉が生ぬるく感じるほどの常軌を逸脱した目つきをしていた。
(うわっ、また変なのが出てきた・・・!)
警戒心をそのままに、汐は心の中で悪態をつく。だが、男が手に持っているものを見て思わず息をのんだ。
その男【風柱・不死川実弥】の手には、禰豆子が入っているであろう霧雲杉の箱があった。
(不死川さん、また傷が増えて素敵だわ!)
それを見た甘露寺は再び胸をときめかせる。
「困ります不死川様!どうか箱を手放し下さいませ!」
後ろから慌てた様子の隠が訴えるが、それよりも先にしのぶがすっと立ち上がった。
「不死川さん。勝手なことをしないでください」
その口調は先ほどまでの穏やかなものではなく、低く淡々としたものだった。
そんな彼女を見て甘露寺は(しのぶちゃん怒っているみたい。珍しいわね、かっこいいわ)とまた胸をときめかせていた。
「鬼が何だって坊主共ォ。鬼殺隊として人を守るために戦えるゥ?そんなことはなァ――」
――ありえねぇんだよ馬鹿がァ!!
不死川は素早く刀を抜くと、その刃を箱に躊躇いもなく突き刺した。ぐくもった声と共に、血に塗れた切っ先が箱から飛び出す。
「!!」
その光景に汐は眼を見開き、炭治郎はすぐさま前に飛び出して叫んだ。
「俺の妹を傷つける奴は、柱だろうが何だろうが許さない!!」
「そうかい、よかったなァ」
不死川は血の付いた刀を箱から抜くと、そのまま刀を振り血を払った。その飛沫の一つが汐の頬にかかり、赤い線を引く。
その瞬間、汐の体がすうっと冷たくなり心臓の音だけが響き渡った。目の前がどんどん赤く染まっていき、心の中がどす黒いもの支配されていく。
それは怒りや憎しみよりも深く冷たい、失望感。
――ああ、そうか。こいつらもか
汐の耳に、何かが砕け散る音が響いた。