第45章 柱合裁判<壱>
一方そのころ。
「冨岡さん。鬼を斬りに行くための私の攻撃は正当ですから、違反にはならないと思いますけど、あなたのこれは隊律違反です」
冨岡はしのぶの頭部を脇に抱え締め上げるようにして拘束し、しのぶは腕をその間に差し入れ頸が締まらないようにしていた。
「鬼殺の妨害、ですからね。どういうつもりですか?」
しのぶはあくまでも温厚な声色で言うが、その顔にはいくつもの青筋が浮かんでおり決して声色と表情が一致しているわけではなかった。
そんな彼女に、義勇は困惑したような顔をし、しのぶもしびれを切らし「何とかおっしゃったらどうですか?」と棘のある言葉を吐いた。
「あれは確か、二年前の事――」
「そんなところから長々と説明されても困りますよ。嫌がらせでしょうか?嫌われてると言ってしまった事、根に持ってます?」
しのぶの言葉が、義勇の心を大きく抉り取り顔まで思い切り崩れる。その微かな隙をしのぶは見逃さなかった。
足のかかと部分に仕込まれた小刀が、その姿を現したのだ。
しのぶがその小刀を義勇に突き立てようとした、その時。
「伝令!!伝令!!カァ!!」
何処からか鎹鴉が飛んできて、大声を上げた。その声にしのぶは足を止め、義勇も刀を持った手を止めた。
「本部ヨリ伝令アリ!炭治郎・汐・禰豆子三名ヲ拘束!!本部ヘ連レ帰ルベシ!!繰リ返ス!炭治郎・汐及び鬼の禰豆子、三名ヲ拘束シ、本部ヘ連レ帰レ!!」
「炭治郎、市松模様ノ羽織ニ額ニ傷アリ!汐、赤イ鉢巻ヲ巻イタ青髪ノ少女!!竹ヲ噛ンダ少女ノ鬼、禰豆子!連レ帰レ!!」
二羽の鴉がけたたましく喚き、森中にその伝令を知らせる。義勇としのぶも互いに刀を納めると森を抜けるべく歩き出す。
二人の間には、なんとも微妙な空気が漂っていた。