第45章 柱合裁判<壱>
その瞬間、汐も炭治郎も悟った。この人には話が通じそうにない。話すだけ無駄だということに。
そんな炭治郎に、義勇は小さな声で尋ねた。
「動けるか?」
だが炭治郎が答える前に「動けなくても根性で動け。妹を連れて逃げろ」とだけ告げた。
「冨岡さん・・・」
炭治郎は一瞬汐に目を向けるが、彼女は眼で「あたしはいいからさっさと逃げて」とだけ伝えた。
「汐、ごめん。冨岡さんもすみません!」
炭治郎は叫ぶように言うと、禰豆子を抱きかかえて走り出した。
そんな彼らを見てしのぶは少し面食らった顔をしたが、すぐに表情を笑顔に戻して言った。
「これ、隊律違反なのでは?」
しのぶの言葉に義勇は答えず、ただ視線を向けるだけ。肌を突き刺すような空気に、汐は息をのんでその光景を見つめていた。
しばしの沈黙があたりを支配したその時、先に動いたのはしのぶだった。
しのぶの刀と義勇の刀がぶつかり合い、火花を上げる。体格的には男性である義勇が有利であるが、しのぶは小柄な分かなり素早いようだ。
「本気、なんですね。冨岡さん」
体勢を立て直しながらしのぶは淡々と言葉を紡ぐ。
「まさか【柱】が鬼を庇うなんて」
(え?柱?)
しのぶの言葉に汐は思わず義勇を見つめた。柱。かつて彼女の養父玄海や鱗滝が付いていた、鬼殺隊最高位の称号。それならば、先ほどの強さも納得できた。
義勇は何も答えずただしのぶを見据えている。そんな彼にしのぶは一つため息をつくと、再び笑みを顔に張り付けながら言った。
「あなたがその気だろうと、私はここで時間稼ぎに付き合う気はありませんので、では、ごきげんよう」
しのぶはそれだけを告げると、目にもとまらぬ速さで駆け抜ける。その速さに流石の義勇も反応が遅れた。