第44章 絆<肆>
「あたしからも、お願い。足を、どけて」
義勇が振り返ると、汐がふらふらと彼の下へ近づいてくるのが見えた。声は枯れ果て、目もほとんど見えていない程傷つきながらも、汐は必死に足を動かす。
「この竈門炭治郎って奴は、時々どうしようもない程素っ頓狂なことを言うけれど、絶対に自分の言葉を曲げたりは、しないの。どこまでも、頭が固い男なのよ。きっと、あんたは、この人の言っていることを理解できない、かもしれない。けど」
――理解できなくても、否定はしないで。竈門炭治郎という人を、否定しないで・・・
汐はそのままぐらりと倒れ、か細く息をつく。そんな彼女の名を、炭治郎はかすれた声で呼んだ。
その時。義勇の脳裏に二つの記憶がよみがえった。一つは雪降る山で出会った、鬼になった妹を守ろうとした少年。
そしてもう一つは、鬼となった養父を涙ながらに打倒した、青髪の。
「お前たちは・・・」
義勇が何かを言おうとした瞬間、こちらに向かってくる足音が聞こえた。彼は瞬時に刀を抜いて、その襲撃者を迎撃する。
「あら?」
襲撃者は空中でくるりと体勢を立て直すと、義勇を見て言った。
それは、蝶を彷彿とさせる羽織を纏い、蝶の髪飾りを付けた小柄な女性。
「どうして邪魔をするんです?富岡さん。鬼とは仲良くできないって言ってた癖に何なんでしょうか」
――そんなだから、皆に嫌われるんですよ
そう言って女性剣士、胡蝶しのぶは刀を構えたまま意味深な笑みを浮かべた。