第44章 絆<肆>
それと同時に、累の体も頸も灰になって消える。残されたのは、彼が身に纏っていた白い着物だけ。これで本当に戦いは終わった。
(でも、なんでだろう。勝ったはずなのに少しも嬉しくない)
残ったのは虚しさと悲しみ。かつて炭治郎が、鬼を斬るたびに悲しそうな顔をしていたことを思い出した。
自分は炭治郎程優しくはないし、汐も炭治郎も禰豆子も、累には散々な目にあわされたため、彼を完全に許すことなどできはしない。
けれど、この胸の中に残るもやもやした気持ちに、汐は名をつけることができなかった。
その時だった。
「止めてください」
炭治郎の声がして顔を向けると、そこには累の着物を踏みつけるようにして立つ義勇の姿があった。
「人を食った鬼に情けをかけるな。子供の姿をしていようと関係ない。何十年何百年生きている、醜い化け物だ」
義勇の淡々とした声が炭治郎と汐の耳に入る。すると炭治郎は、凛とした眼で義勇を見据えながら言った。
「殺された人たちの無念を晴らすため、これ以上被害者を出さないため、勿論俺は容赦なく鬼の頸に刃を振るいます」
累の着物を握りしめながら、炭治郎ははっきりと言葉を紡いだ。
「だけど、鬼であることに苦しみ自らの行いを悔いている者を踏みつけにはしない」
――鬼は人間だったんだから。俺達と同じ人間だったんだから
「足を、どけてください。鬼は醜い化け物なんかじゃない。鬼は虚しい生き物だ。悲しい、生き物だ」
炭治郎の言葉に、義勇は目を細めた。とても鬼を狩る剣士の言葉ではない。この少年は、あまりにも優しすぎる理解できない行動だった。