第44章 絆<肆>
炭治郎と禰豆子のそばに、累の胴体だけがふらふらと近づく。だがその手は彼等には届かずにその少し前で倒れ伏す。
その累の体から、炭治郎は抱えきれない程のとてつもない悲しみの匂いを感じた。涙が彼の両目からあふれ出すほどの。
炭治郎は消えゆく累の背中にそっと手を置いた。陽だまりのような温かい彼の手。それは、頭部だけになった累にも感じていた。
そしてその瞬間霞がかった彼の記憶が一気によみがえった。
(僕は、謝りたかったんだ。父さんと母さんに。ごめんなさい、僕が全部悪かった。許してほしいって思ったんだ)
「でも、山ほど人を殺した僕は、地獄へ行くよね。父さんと母さんと同じところには行けないよね・・・」
累の消えそうな言葉が風に乗って汐の耳に届く。汐は自然と口を開き、静かに言った。
「それを許すのはあたし達じゃない。でも、あなたはもうわかっているはず。あなたを許すのが誰であるか」
汐の声が累を揺らしたその時。不意に、累の背中に誰かの手が置かれた。振り返るとそこには、彼と似た眼をした男性と、その傍らで微笑みかける女性がいた。
「一緒に行くよ、地獄でも。父さんも母さんは累と同じところへ行くよ。ずっと、ずっと一緒だ」
「父さん・・・母さん・・・」
累の心が【人】へと戻った瞬間、彼の両目から涙があふれ出す。そして彼は二人の胸に飛び込み、大声をあげて泣いた。
「全部、全部僕が悪かったよう。ごめんなさい!ごめんなさい!!」
累は何度も何度も両親に謝罪の言葉を叫ぶ。そんな彼を二人は硬く抱きしめほほ笑んだ。そして三人は、地獄の業火に包まれるようにして消えていった。