第44章 絆<肆>
その少年は生まれつき体が弱かった。走るどころか、歩くことさえ辛い程。彼の両親は彼を治そうとあちこちの医者へかかったが、皆匙を投げてしまっていた。
そんな中、少年の下にある一人の男が現れた。白い西洋風の服を着た、白い肌に血のような赤い目の男。
「可哀そうに。私が救ってあげよう」
その男の血(ちから)によって少年の体は強くなった。しかし、彼の両親は喜ばなかった。強い体を手に入れた代わりに日の光に当たれなくなり、人を食わねばならなくなったからだ。
ある日の夜。彼の両親は彼が人を殺し食っている姿を目撃する。そして彼の父親は酷く怒り、母親は泣き崩れた。
少年には意味が分からなかった。何故この二人は、息子である自分に笑いかけてくれないのだろうと。
そして彼は思い出した。かつて川でおぼれた子を助けて死んだ親がいたという話。彼は感動した。親の愛、絆。その親は立派に【親の役目】を果たしたからだ。
それなのに何故か、少年の父親は彼を殺そうと刃を向けた。母親は泣くばかりで殺されそうになっているわが子を助けようともしない。
――偽物だったのだろう。俺達の絆は。本物じゃなかった。
少年は父親と母親に手をかけた。二人ともおびただしい量の血を流していて、一目見て助かるとは思えない程の傷だった。
だが、彼の母親が小さくうめいて声を漏らす。彼はまだ生きていることに少し驚くが、彼女の言葉が気になり思わず耳を傾けた。
――ごめんね、累。丈夫な体に産んであげられなくて、ごめんね・・・
その言葉を最後に母親は事切れた。その瞬間少年、累は思い出した。父親が自分に刃を向けた時に発した「一緒に死んでやる」という言葉。殺されそうになった怒りで理解できなかったが、それは累が人を殺めた罪を一緒に背負って死のうとしてたということに気づいた。
そして彼はすべてを理解した。本物の絆を、彼はあの夜自分自身の手で切ってしまっていたことに。
「全てはお前を受け入れなかった親が悪いのだ。己の強さを誇れ」
その男は累を励ましてくれた。そう思うよりほかなかった。たとえ自分が悪いと分かっていても、自分のしたことに耐えるにはそうするしかなかった。
毎日毎日両親が恋しくてたまらなかった。虚しかった。作り物の家族を作っても、その虚しさが消えることはなかった。
守ってもらいたかった。甘えたかった。本当の家族が、欲しかった・・・