第44章 絆<肆>
「あ・・・あんた・・・!」
汐がかすれた声で言うと、義勇は汐の背中を支えたまま静かに言った。
「俺が来るまで良く堪えた。後は任せろ」
その声が汐の心に、絶大な安心感を生み出す。だが、汐は無理やり体を起こすと、苦しげに息をつきながら言った。
「あたしの事よりあの二人を・・・炭治郎と禰豆子を・・・お願い・・・。あたしじゃもう・・・守れ・・・ないから・・・」
汐の言葉に義勇は微かに目を見開くと、遠くで倒れ伏す二人を見る。それから汐に目を向けると、そのまま彼女の体を木に寄りかからせた。
そんな様子を、累は苛立たし睨みつける。その体は怒りのあまり小刻みに震えてさえもいた。
「次から次に・・・!!僕の邪魔ばかりする屑共め!!」
――血鬼術・刻糸輪転(こくしりんてん)――
累の手にいくつもの糸が集まり、輪のようになっていく。風を切る鋭い音が響き、巻き込まれた木の葉が粉々になっていく。
その糸の束を、累は義勇に向かって放った。糸の嵐が、轟音を立てて彼に向かう。
――全集中・水の呼吸――
――拾壱ノ型 凪(なぎ)
糸の嵐が義勇の間合いに入った瞬間、糸がパラパラと彼の周りを漂った。累をはじめ、皆何が起こったのか理解できなかった。
(なんだ?何をした?奴の間合いに入った瞬間、糸がばらけた。一本も届かなかったのか?最硬度の糸を――斬られた?)
「そんなはずはない!!もう一度だ!もう一度・・・!」
累は再び義勇に向けて術を放とうと手を伸ばす。だが、不意に彼が累の視線から消えた。その刹那。
義勇はすれ違いざまに累の頸に刃を滑らせた。ずるりという音と共に、累の頸がずれ、ごろりと落ちる。
冨岡義勇が繰り出したのは、拾までしかない水の呼吸の方に加え、彼自身が編み出した拾壱の型。彼の間合いに入った術は実質全て無効化されるのだ。