第5章 嵐の前の静けさ<肆>
「ねえ、教えて。鬼ってなんなの?おやっさんは、何が原因でああなったの?」
その言葉は驚くほど静かで落ち着いたものであり、義勇は驚きはしたものの自分の知っていることを話した。
鬼というものは、ある鬼の血が体に入り込んだことで生まれる。おそらく玄海もその時に血が混入したのだろうと、義勇は語った。
だが、玄海が日の下に出ることができなくなったのは最近ではない。それなのに鬼としての習性が今の今まで出なかったことは、その法則に矛盾する。
しかし、汐にとってはそのようなことはもはやどうでもよかった。気になったのは、鬼を増やす何かがいる、という話だ。
「そいつが、おやっさんを鬼にさせ、村のみんなを殺した原因なんだね」そういう汐の目は、恐ろしいほど鋭く、深い色を宿していた。
怒り、憎しみ。否、そのようなものがすべて生易しく感じるほどの、殺意。絶対に許せないという確かな殺意。
「そいつを倒すには、どうすればいい?あたしは、これからどうすればいいの?」
こんな目をする人間を、義勇は数えるほどしか見たことがなかった。だが、同時にゆるぎない決意も、汐から感じる。
この決意が、身体を動かし、生きる糧になる。
義勇は小さく息をつくと、汐にこれからのことを簡潔に伝えた。
「まずは狭霧山という山の麓に行け。先生―、鱗滝左近次という老人はそこに住んでいる。お前の師から言伝は行っているだろうが、もしもそうでない場合は冨岡義勇に言われてきたことを伝えろ」
義勇はそれから汐に狭霧山の場所を伝えると、他の隊士と共にすぐに引き上げた。