第43章 絆<参>
――全集中・海の呼吸――
――伍ノ型 水泡包(すいほうづつみ)!!
相手の盲点に入る技を使い、汐は累に近づく。だが、累は呆れた様子で再び赤い糸を放った。
いくら盲点に入ろうが、そのあたり一帯を覆い尽くしてしまえば無駄になる。累の攻撃範囲は自由に変えられる。
(所詮虚勢か)
糸の壁の中に汐の姿が見える。このままもう一度糸で引き裂き、息の根を止めようと腕を引いたその時だった。
汐の口から音が漏れる。だがそれは、海の呼吸特有の低い地鳴りのような音ではなく、弦を弾くような鋭く高い音。
汐は糸の壁の前で止まり、足を地面に叩きつけるようにして構えた。そして、その口を開く。
――戦(うた)え・・・!
――ウタカタ・伍ノ旋律――
――爆砕歌(ばくさいか)!!!
汐の口から放たれた衝撃波が、空気を大きく震わせ爆発を起こす。そのあまりの音に炭治郎は思わず耳をふさぎ、累も顔をしかめた。
声の大砲は糸を瞬時にバラバラに引き裂くと、その勢いのまま累の右半分を吹き飛ばした。
糸に交じって累の体の一部が宙に舞う。下伍と書かれた左目が、大きく見開かれる。そしてその勢いのまま、汐は累の傷口に向かって刀を振るった。
だが、それよりも早く片方の腕に繋がれた糸が汐を襲う。しかしこれこそが、彼女の狙いだった。
(あたしがあえて突っ込んだのは、こいつを仕留めるためじゃない。糸を吹き飛ばし、こいつの体を吹き飛ばすことによって、炭治郎が生生流転のための回転数を稼ぐ道を作るためッ!そして、あたしがこいつの糸を引き受ければ、炭治郎が間合いに入る隙を作れるッ!)
汐は相打ちを覚悟で累に突っ込み、道を作ることを選んだ。自分では累に勝つことが不可能なのをわかっていたからだ。
だからこそ、彼女は炭治郎に託すことを選んだ。自分の命と引き換えに。
(でも、本当は。こいつはあたしが仕留めたかった。こいつはあたしと似ているから。家族に飢え、浅ましい考えを持っていたあたしと似ているから)
――でもね。累。あんたは一つ大きな勘違いをしているわ。
絆なんてものは、奪ったり欲しがったりするものじゃない。いつの間にか繋がれているのよ。知らないうちに。
あたしが、そうだったように。