第42章 絆<弐>
「汐!汐!!しっかりしろ汐!!」
炭治郎は土煙の中で倒れ伏す汐を抱えながら叫んだ。汐は口から血を吐き、喉に穴が開いたかのようなか細く息をしている。
踏みつけられた左手はどす黒く変色し、体はびくびくと痙攣していた。
「ごめん、ごめんな汐・・・。無理させて、こんな目に遭わせて・・・」
炭治郎は汐の体を抱きしめ、悔し気に息をつく。汐を止められなかった自分の不甲斐なさを、彼は痛い程感じていた。
「ここで休んでいてくれ、汐。あいつは必ず俺が倒す」
炭治郎は汐の体をそっと気に寄りかからせると、累の前に立ちはだかった。
(落ち着け。感情的になるな。集中しろ。呼吸を整え、最も精度が高い最後の型を繰り出せ!!)
一方禰豆子は血を流しすぎたのか、眠るように気を失う。その様子を累は、興味深そうに見ていた。
(気を失った?眠ったのか?独特な気配の鬼だな。僕たちとは何か違うような・・・。面白い)
炭治郎は眼を見開き、大きく息を吸った。
――全集中・水の呼吸――
拾ノ型 生生流転!!
回転しながら繰り出される連撃は、回転を増すごとに威力が増す。それはまるで荒れ狂う竜の如き動きで、先ほどまで斬れなかった累の糸が、ついに断ち切られた。
糸が断ち切られたことに、累の眼が見開かれる。
(斬れた!斬れた!!このまま距離を詰めていけば勝てる!!)
そのまま炭治郎は累の下へ一直線に向かう。そんな彼見ながら、累は焦ることもなく口を開いた。
「ねえ。糸の強度はこれが限界だと思っているの?」
――血鬼術・刻糸牢
累の血を含んだ真っ赤な糸が、炭治郎を覆い尽くすように広がった。その瞬間、彼は悟った。この糸は斬れない。先ほどまでの糸と匂いがまるで違う。
「もういいよ、お前。さよなら」
炭治郎は死を覚悟した。絶対に負けるわけにはいかないのに、禰豆子のためにも、汐のためにも、死ぬわけにはいかなかった。
だが、体の動きは急に止めることはできない。そう思った、時だった。