第40章 蜘蛛の棲む山<肆>
木の陰からのぞいた二人は思わず息をのむ。そこには顔から血を流してすすり泣く少女の鬼と、その傍らで冷徹な眼で彼女を見下ろす少年の鬼の姿があった。
彼女の顔にはいくつもの切り傷があり、いずれからも血が滴り落ちている。そして累と呼ばれた少年の手には、血の付いたままの糸があやとりをするように指にかかっていた。
「何見てるの?見世物じゃないんだけど」
呆然と見ていた汐達の視線に気づいたのか、累はこちらに視線を向けさほど興味がないといった口調で言った。
「何しているんだ・・・!!君たちは仲間じゃないのか!?」
炭治郎が声を震わせながら問い詰めると、累は「仲間?」と首をかしげながら答えた。
「そんな薄っぺらなものと同じにするな。僕たちは家族だ。強い絆で結ばれているんだ」
累の言葉に汐は強い違和感を覚えた。家族とはこのように殺伐としたものだっただろうか。傷つけあったりするだろうか、と。
「それにこれは僕と姉さんとの問題だよ。余計な口出しするなら、刻むから」
累が糸越しに冷たい眼を二人に向ける。汐は思わず蹲る少女の鬼と彼を見比べた。
二人は確かによく似た顔立ちをしている。だが、汐の今まで見てきた家族と呼ばれる存在とは似ても似つかないものだった。
「嘘だ。こんなのは家族なんかじゃない」
それを強く感じた汐は、思わず口を開いた。汐の鋭い声に、炭治郎は視線を向け累の眼が微かに開かれる。
「少なくともあたしが今まで見てきた家族は、こんなんじゃなかった。血のつながりがある家族もそうじゃない家族も、どんな家族もみんな対等でどっちかが上なんてなかった」
汐は今まで見てきた家族と呼ばれる存在を思い出しながら言葉を紡ぐ。汐と玄海。彼女の故郷の村人達。庄吉と絹。右衛門と孫娘。そして、炭治郎と禰豆子。
いずれもみな笑顔で、温かく優しい眼をしていた。
そして、藤の花の家で炭治郎が言った『家族も仲間も、強い絆で結ばれていれば同じくらいに尊い』という言葉。この言葉が今目の前にいる二人に当てはまるとは到底思えなかったのだ。