第5章 嵐の前の静けさ<肆>
小さくうめき声をあげながら、崩れ落ちる鬼。その背後に汐が転がるように着地する。
(やった・・・のか?)
義勇がその光景に目を離せないでいると
「おやっさん!!!」
汐があわてて振り向き、首だけになった彼の頭を取り上げた。
「うし・・・お・・・」
彼の口から言葉が漏れる。汐の両目から、とめどなく涙があふれ出した。
「おやっさん!ごめん、ごめんなさい!あたし、あたしおやっさんにひどいことを・・・」
「いいんだ。俺がうそをついていたことは事実だ・・・だが、まさかお前がここまでやるとは・・・な。強くなった・・・本当に」
身体は既に灰となり、ほとんどなくなっている。そして彼の頸も、灰になりつつある。
「泣くな、汐。胸を張れ。前を見ろ。そして、最後まで足掻け。生きるってのはそういうもんだ。そして、お前にもしも、仲間が出来たら大切にしろ。そうすりゃ、必ず答えてくれる」
「おや・・・っさ・・・ん・・・」
「ありがと、よ。最期にお前の顔が見られて、俺ァ幸せもんだ。この世で最も、別嬪の顔が見られて・・・よ・・・」
その言葉を最後に、彼、玄海の頸は灰となり風に乗って昇って行った。残されたのは、彼が身に着けていた赤い鉢巻。
「ううぅ・・・・!ぐうっ・・・うぐっ・・・!!」
汐はそれを握りしめ声を殺して泣いた。悔しさと、悲しさの入り混じった小さな慟哭も、降りしきる雨と風に流されて消えて行った。