第39章 蜘蛛の棲む山<参>
その後、汐達道なき道を歩き続ける。炭治郎の鼻と伊之助の感覚がなければ道に迷うことは必然だっただろう。
木々が切れ開けた場所に出たとき、汐はほっと息をついた。目の前には川が流れ、その水面には月が静かに映っていた。
だが、そこについたときに炭治郎が鼻を抑えた。風向きが変わり、刺激臭がこちらに流れ込んできたのだ。
その臭いは嗅覚が普通な汐や伊之助も感じたらしく、顔をしかめる。(最も伊之助は被り物のせいで表情はわからないのだが)
「大丈夫?」
「・・・ああ、なんとか」
「無理しないでよ。あんたに何かあったら、あたしは禰豆子に顔向けできないんだから」
汐の言葉は少し乱暴だが、それでも炭治郎を気遣う気持ちがあふれ出ている。そんな彼女を見て炭治郎の心に温かいものがこみ上げてくる。
「ありがとう、汐」
「別に。さて、こんな臭いところからはさっさと抜けちゃいましょ。ぼんやりとだけれど鬼の気配もするし」
汐はぶっきらぼうに言うと、炭治郎と傷ついた伊之助の前を歩きだした。そんな彼女に、伊之助は「俺の前を歩くんじゃねえよ!」と怒鳴る。
その時だった。
何処からか、雷のような音がして汐は思わず上を見上げた。その音は炭治郎にも聞こえたらしく、彼も上を見上げて首をかしげていた。
(雷と言えば、善逸はどうしているのかしら。あのまま置いてきちゃったけれど、あいつの性格だから自分から鬼の住処に入るなんてことはないだろうし。あ、でも。煩悩の塊だから、禰豆子を捜して入ってきてるかも)
そうだとしたらなんだかなあと、汐は苦笑いを浮かべた。
「さっきの音。雷が落ちたみたいな音だ。雷雲の匂いはしないけれど、刺激臭が強くなっていてわからないな」
「知るかそんなこと!俺は先に行くぜ」
伊之助はそう言って川に入ろうとするが、炭治郎はそんな彼を呼び止めた。