第39章 蜘蛛の棲む山<参>
炭治郎から放たれた技は、斬られたものに殆ど苦痛を与えない慈悲の剣撃。相手が自ら頸を差し出したときにのみ使う技だ。
その証拠に頸を斬られた女の鬼の表情は穏やかで、眠るように目を閉じた。
頸がおち、灰になって崩れていく女の鬼。たくさんの人を傷つけ命を奪った鬼ではあるが、炭治郎が彼女に向ける眼は、とても優しくとても悲しいものだった。
透き通るような、優しい眼。
その眼を向けられた彼女の両目から涙があふれ出す。そして消えゆく寸前、彼女はこう言った。
「十二鬼月がいるわ、気を付けて・・・!」
「!?」
その言葉を聞いて炭治郎は戦慄した。十二鬼月。鬼舞辻直属の配下であり、おそらく彼に近い存在の鬼。
その血液を奪えれば、禰豆子が人間に戻る薬を作る大きな一歩になるかもしれない。
「そうだ!伊之助と汐!」
炭治郎は慌てて踵を返すと、二人が待つところへ戻った。
そこでは
「だぁーかぁーらぁー!俺に触るじゃねえって言ってんだろうが!」
「うるさいわねあんた。いいから黙って止血位させなさいよ!自分の状況もわかんない程馬鹿なわけ!?」
汐と伊之助が言い争っている現場に出くわした炭治郎は、軽く頭を抱えた。とりあえず二人が生きていることに安堵したからだ。