第39章 蜘蛛の棲む山<参>
――全集中・水の呼吸――
――肆ノ型 打ち潮!!
炭治郎から放たれた技が、鬼の両足を穿ち体勢を崩させた。
「袈裟斬りだ!!」
空中に身を投げた伊之助は心の中で舌打ちをした。まるで川の水が流れゆくこと程当たり前に、炭治郎の思う通りに進んでいることに。
(こいつは自分が前に出ることではなく、戦いの全体の流れを見ているんだ)
そのまま伊之助の二本の刀は、鬼の右肩から左脇下を切り裂く。すると鬼の体は崩れ、灰となって消えていった。
(やった!)
汐は思わず拳を作り、グッと握りしめる。だが、伊之助は突如炭治郎の方を向くと、刀を投げ捨て走り出した。
「伊之助!?」
「お前にできることは、俺にもできるわボケェエエ!!」
驚く炭治郎をよそに、伊之助は炭治郎を抱えると思い切り放り投げた。決して軽くはない彼の体が空中へと舞い上がる。
それを見た汐は彼の意図を察知した。彼は炭治郎に空から鬼の位置を探らせようというのだ。
その試みは功を奏し、炭治郎の鼻と目が鬼の位置を捕らえた。
岩場に全身が白に包まれた女の鬼が、怯えた顔で炭治郎を見上げている。彼女の両手に繋がれている糸が、人や鬼を操っていた動かぬ証拠だ。
炭治郎は息を大きく吸い、壱ノ型を放たんと刀を向けた。だが、突如女の鬼が両手の糸を自ら断ち切り、その頸を彼の前に差し出すような動作をしたのだ。
炭治郎はそれを見て目を見開くと、刀をとっさに構えなおした。そして
――水の呼吸――
――伍ノ型 干天の慈雨