第38章 蜘蛛の棲む山<弐>
(そうだ!)
炭治郎は刀を納めると、突然相手に背を向けて走り出した。操られている隊士は、炭治郎を追って動き出す。
彼の予想外の行動に汐は面食らったが、彼の眼が真剣そのものだったため何か案を思いついたのだと確信した。
炭治郎はしばらく逃げ回っていたが、突如方向を変え女性隊士に突進する。そしてそのまま懐に入り、彼女の腰を抱えると大きく息を吸い込んだ。
――全集中――
そのまま炭治郎は、女性隊士を渾身の力で真上に放り投げた。その凄まじい力に驚く彼女。そしてそのまま木の枝に糸が引っ掛かり、宙ぶらりんの状態になった。
これでは刀を振るうどころか、動くことさえままならない。
(なるほど、考えたわね炭治郎!)
汐はそれを見て、炭治郎と同じように相手から距離をとると、懐に滑り込み彼と同様に放り投げた。
汐が投げた隊士も、女性隊士と同じように木に引っ掛かり動きが止まった。
そんな二人を見て伊之助は
「なんじゃああそれええ!!俺もやりてええ!!」
まるで楽しいおもちゃを見つけた子供の様にはしゃぐと、炭治郎と汐の様に隊士を放り投げた。
他の二人同様に絡まる隊士を見て、伊之助は小躍りしながら声を上げる。
「見たかよ!!お前らにできることは俺にだってできるんだぜ!?」
しかし炭治郎と汐は、残っていた隊士の攻撃を抑えることに精いっぱいで、伊之助の快挙は見ていなかった。
謝る二人に憤慨する伊之助。伊之助はそのまま、汐を襲っている隊士を掴むと、再び渾身の力で放り投げた。