第38章 蜘蛛の棲む山<弐>
キリキリという例の音が聞こえ、三人は足を止める。暗がりの中からすすり泣く声と共に、糸に繋がれた隊士が現れた。
「駄目・・・、こっちに来ないで・・・!」
か細い声で隊士がそう嘆願する。黒髪を一つにまとめた女性の隊士だ。
彼女の顔は殆ど血の気が無く、右手には他の隊士が突き刺さったままの刀を持ち、左手は同じく血まみれになった隊士の屍を掴んでいる。
「階級が上の人を連れてきて!!そうじゃないと、みんな殺してしまう!お願い、お願い!!」
女性隊士の目から涙があふれ、引き裂くような声が口から洩れる。炭治郎が一瞬ためらったその時だった。
「逃げてェ!!」
「!!」
女性隊士の刀が振り上げられ、炭治郎を襲う。その間に汐が間一髪で入り、その一撃を受け止めた。
(うっ!何この力・・・!女の、普通の人間の力じゃない!?)
汐の刀を穿つ彼女の刀は、その細腕ではありえない程重く強い力で押し込んでくる。汐も渾身の力で刀を押し返し、炭治郎を庇うようにして距離をとった。
「操られているから、動きが全然、違うのよ!【私たち】こんなに強くなかった!!」
ありえない体勢から放たれる斬撃は、三人が思っていたよりもずっと早く不規則な動きで襲い掛かってくる。その無理な動きで彼女の骨が砕ける音が響き、潰れたようなうめき声が上がった。
(鬼が無理やり体を動かしているから、骨が折れてもお構いなしだ!酷い・・・!!)
炭治郎は手が出せず女性隊士の斬撃をかわし続ける。しかし相手の動きが全く読めない上に、すさまじい力で斬りかかってくるため長くはもたないだろう。
「炭治郎、後ろ!!」
汐が叫び、炭治郎も視線を向ける。キリキリという音が再び聞こえ、再び操られているものが姿を現した。
それを見て汐はひゅっと喉を鳴らす。そこにいたのは、全身から血を噴き出し、体のあちこちがおかしな方向に曲がった三人の隊士だった。
「こ、殺して・・・くれ」
一人の隊士が息も絶え絶えに懇願する。彼の右腕からは骨が飛び出し、腕の形をしていない。
それでも糸がお構いなしに持っている刀を振り上げさせようと、無理やり彼の腕を引き上げていた。