第38章 蜘蛛の棲む山<弐>
「ここは俺に任せて先に行け!!」
「小便漏らしが何言ってんだ!?」
伊之助が返すと村田は顔を真っ赤にしながら「誰が漏らしたこのクソ猪!テメエに話しかけてねえわ黙っとけ!」と叫んだ。
「情けない所を見せたが、俺も鬼殺隊の剣士だ!!ここは何とかする!!」
「止めなさいよ!その台詞、これから死ぬ奴の常套句じゃない!」
「縁起でもないことを言うんじゃねえよオカマ野郎!」
「誰がオカマよ!!あたしは正真正銘女だっつーの!!」
汐が怒鳴りつけると村田は驚いた表情を見せたが、すぐに真剣な面持ちに変わって言った。
「とにかく!糸を切ればいいというのが分かったし、ここで操られている者達は動きも単純だ。蜘蛛にも気を付ける。鬼の近くにはもっと強力に操られている者がいるはず。三人で行ってくれ!!」
炭治郎は一瞬だけ迷う様子を見せたが、凛とした声で返事をすると汐と伊之助を連れて駆け出した。
「だあーっ!離せコラ!まずはあいつを一発殴ってからだ!だれがクソ猪だ!!」
「同感だわ!あたしをオカマ呼ばわりしやがって!次会ったら性転換させてやる!」
「止めろ二人とも!今はそんな場合じゃないだろう!!」
村田に対して憤る二人に、炭治郎は走りながら窘める。伊之助を先頭に、三人は鬼のいる方へを足を進めた。
「それより、伊之助。ありがとね?」
「は?いきなりなんだよ?」
「あたしの事、信じて頼ってくれたんでしょ?」
汐の言葉に伊之助は先ほどのことを思い出す。自分が型を使う時、汐に敵の牽制を頼んだことを思い出したのだ。
そして思い出すと再びほわほわしたものが込み上がってきて、彼は思わず奇声を上げた。
進むたびにたくさんの糸が三人にまとわりつき、動きを微かに制限させる。伊之助は苛立ち、炭治郎は冷静に鬼に近づいていることを分析する。
汐もぼんやりとだが鬼の気配を感じ、表情を引き締めたその時だった。