第38章 蜘蛛の棲む山<弐>
――獣の呼吸・漆ノ型――
――空間識覚!!!
伊之助の最大の特技は、触覚が優れていること。集中することにより僅かな空気の揺らぎすら感知することができる。
しかしその反面、その場から動けなくなり無防備になってしまうため、一人での使用には危険を伴う。
そんな彼に向かってくる隊士達を、汐はひたすら牽制し続けた、伊之助が鬼の居場所を探り当てることができると信じて。
「・・・見つけた!そこか!!」
しばらくした後、伊之助は大声で叫びその方向に視線を向けた。
「本当ね!?本当に鬼を見つけたのね!?」
「おお!あっちから強い気配をビンビン感じるぜ!」
伊之助は声高らかに断言する。被り物をしているため眼はわからないが、このような状況で嘘をつくような男ではないことを汐も炭治郎もわかっていた。
「そうか!すごいぞ伊之助!」
「悔しいけどやるじゃないあんた。見直したわ」
炭治郎と汐がそういうと、伊之助の心の中に再び温かいものがほわほわと湧き上がってきた。
しかしそれを感じる間もなく、操られた隊士の一太刀が伊之助の頬をかすめた。
(彼らを何とかしないと先へ進めそうにないわね。嗚呼もう!人間じゃなかったら容赦なくぶちのめせるのに!!)
相手が人間、しかも仲間である以上うかつに手が出せず、汐の苛立ちが募りつつある。
それは炭治郎や伊之助も同じで、皆眼に焦りと苦悶が浮かびつつあった。
そんな彼らを見て村田は何かを決心したように口を引き結ぶと、襲い掛かってくる隊士の太刀を受け止めた。
「村田さん!?」
炭治郎が声を上げると、村田はそのままの姿勢で絞り出すように叫んだ。