第38章 蜘蛛の棲む山<弐>
少年は月明かりを背に宙に浮いているように見えた。否、浮いているように見えたのは、目に見えない程の細い糸の上に乗っているからだった。
その異様な光景に気配を感じるまでもなく、彼が人ならざる者鬼であることが見て取れた。
「僕たち家族の静かな暮らしを邪魔するな」
鬼の少年は淡々とそう告げ、汐達を冷ややかに見降ろす。その眼を見たとき、汐の体は震えた。
浅草で遭遇した鬼たちの眼も凄まじかったが、目の前の鬼の少年はそれ以上に底が見えない眼をしていた。
こいつはただの鬼じゃない。汐は瞬時にそれを察した。
だが、炭治郎は彼が言った言葉に違和感を感じた。彼は確かに今、【家族】と言った。ということは、今隊士達を操っている鬼は別にいることになる。
「お前等なんてすぐに【母さん】が殺すから」
(母さん?)
少年の鬼の言っている意味が分からず、困惑する炭治郎。するとそれを見ていた伊之助が、操られている隊士を踏みつけ飛び上がり、少年の鬼に斬りかかった。
が、その刃は彼には届かず、見事に空振りをする。少年の鬼はそんな伊之助に見向きもせず、糸の上を歩いてどこかへと去っていった。
「何のために出てきたんだうっ!」
伊之助はそのまま背中から地面に落ちうめき声をあげる。そんな伊之助に向かう隊士を牽制すべく、汐は間に入った。
「ちょっとちょっと。どうするのよこれ!?あいつを追った方がいいんじゃない!?」
「違う、あの子はおそらく操り糸の鬼じゃない。だからまず先に・・・!」
「あーあーあ!!」わかったっつうの!鬼の居場所を探れってことだろ!?うるせえデコ太郎が!」
伊之助はそういうと、近くにいた汐に向かって声を荒げた。
「おいわたあめ牛!俺は今から鬼の居場所を探る。その代わりしばらくは動けねえ。だからそいつらを俺のそばに近づけんじゃねえぞ!」
伊之助はそういうと、持っていた二本の刀を地面に突き刺し両手を広げた。