第37章 蜘蛛の棲む山<壱>
汐はこの音に聞き覚えがあった。先ほど、山に引き込まれるようにして消えた隊士が、消える寸前に聞こえてきた音と酷似していた。
そして、そばにいる隊士も、音に聞き覚えがあるのか瞬時に顔が青くなる。
「鬼の気配がするわ。みんな気をつけて!」
汐の言葉にそれぞれが刀を構える。だが、気配はあちこちに分散されていてどこに潜んでいるかわからない。
キリキリという音はこちらに近づく様にどんどん大きくなっていく。そして不意に、彼らの背後で何かが動く気配がした。
四人が反射的にその方を向くと、森の奥から一人の隊士がこちらに向かってくる。だが、どうも様子がおかしい。
するとその隊士についてくるかのように、森の奥から次々と他の隊士たちも現れた。全員口から血を流し、目の焦点が合っていない者もいる。
そのうちの一人が刀を構え、汐のそばにいる隊士に向かって斬りかかってきた。
彼は悲鳴を上げつつもその斬撃をよける。そして他の隊士はそばにいた汐達にもそれぞれに刀を振るった。
「ハッハ!こいつらみんな馬鹿だぜ。隊員同士でやりあうのはご法度だって知らねえんだ!」
「いや、どの口がそんなこと言ってんの!?それに動きがどう見たっておかしいわ!何かに操られているのよ!」
汐は身をかわしながら伊之助に怒鳴りつけた。彼女の言う通り、彼らの動きは明らかにおかしく、人間ならばありえない動きをしているのだ。
「よし、じゃあぶった斬ってやるぜ!」
「駄目だ!まだ生きている人も交じってる!それに仲間の亡骸を傷つけるわけにはいかない!」
「否定ばっかりするんじゃねぇ!!」
業を煮やした伊之助が、怒りの頭突きを炭治郎にお見舞いした。
「なにやってんのあんたたち!こんな状況で遊んでいる場合じゃないでしょ!?」
振り上げられた刀を受け止めながら、汐は頭から湯気を出して叫んだ。このままでは全員の命が危ない。何とかしなければ。