第37章 蜘蛛の棲む山<壱>
「伊之助、汐!」
炭治郎が鋭く叫んで二人を制止させる。彼の視線の先には、背中に滅の字を入れた一人の隊員の姿があった。
彼を驚かせないように三人はそっと近づく。そして、炭治郎が声をかけようと手を伸ばしたその時だった。
「!?」
彼が息をのんで刀に手をかけ振り返る。だが、三人が隊服を着ていると認識した時、彼の表情が少しだけ和らいだ。
「応援に来ました。階級・癸、竈門炭治郎です」
「同じく階級・癸、大海原汐よ。そしてこいつが嘴平伊之助」
二人が素性を明かすと、隊士は再び顔を引つらせた。その眼には絶望が浮かんでいる。
「なんで【柱】じゃないんだ。癸なんて何人来ても同じだ!意味がない!」
隊士がそう言った瞬間、汐の者でも炭治郎の者でもない拳が彼の顔面を穿つ。
「伊之助!」
「あんた何やってんのよ!?あたしだって腹立つけどそんな状況じゃないくらいわかるわよ!」
汐と炭治郎が伊之助を窘め、隊士は鼻を抑えて伊之助を睨みつける。
だが、伊之助は興奮しているのか隊士の頭を掴んで大声を上げた。
「うるせえ!!意味のあるなしでいったらお前の存在自体意味がねえんだよ。さっさと状況を説明しやがれ弱味噌が」
「伊之助止めなさい。いくらその辺を歩いてそうなパッとしてない顔をしてるからって、この人はたぶんあたしたちより先輩よ」
「いや、お前も今ものすごく失礼なことを言ったよな!?お前も俺の事思い切り馬鹿にしてるよな!?」
ひとしきりそう突っ込んだ後、彼は伊之助の手を掴みながら説明した。
彼も汐達同様鴉からの指令を受け、彼を含め十人の大使がこの山に入った。だが、しばらくして隊員たちが突如斬りあいを始めたという。
そして彼も巻き込まれそうになり、命からがらここまで逃げてきたということだった。
「隊員同士の斬りあい・・・直前で仲間割れってわけでもなさそうね」
「ああ。考えられるのはたぶん、鬼の・・・」
炭治郎がそう言いかけたとき、あたりからキリキリと奇妙な音が聞こえてきた。