第37章 蜘蛛の棲む山<壱>
常軌を逸脱した光景に、全員が口を開けたまま呆然と彼が消えた山を見つめる。
すると山の方から強烈な匂いと膨大な気配が炭治郎と汐のそれぞれの感覚を刺激した。炭治郎の手が震え、汐は思わず自分の体を抱きしめる。
(何・・・?今の気配・・・!一匹や二匹の気配じゃない。とてつもなく大きいのと、それから・・・)
無惨と遭遇した時ほどではないが、明らかに今までの雑魚とは違う感じに、汐は体を震わせる。でも、ここで立ち止まるわけにはいかない。
「俺は、行く」
汐よりも先に炭治郎が口を開いた。思わず顔を見ると、彼も顔に脂汗を浮かべている。
あの炭治郎ですらこんな眼をしていることに、汐は驚きつつも拳を握った。
だが、そんな彼らの前に歩み出る者がいた。伊之助だ。彼は炭治郎と汐を押しのけ、刀に手をかけた。
「俺が先に行く。お前らはがくがく震えながら、後ろをついてきな。腹が減るぜ!!」
挑発的な言動だが、その声には二人を嘲る様子はない。その背中が頼もしく見えて、汐は思わず笑みを浮かべた。
(ただ、言葉少し間違ってるけど)
そのことは背後で善逸が小さく突っ込んでいた。そんな彼を放置し、伊之助は山に突入し、汐と炭治郎もそのあとを追った。