第37章 蜘蛛の棲む山<壱>
やがて日が落ち、あたりが暗黒と静寂に包まれたころ。
「待ってくれ!!」
突然善逸が叫び、彼を除いた三人が振り返る。
「ちょっと待ってくれないか!?」
善逸は真剣な表情で三人を見据え、凛とした声で言い放った。これから始まる大仕事を前に、気合を入れようとしているのだろうか。
と、思いきや次の瞬間にはその表情は見事に情けないものとなり、凛とした声も泣きごとへと変わった。
「怖いんだ!目的地が近づいてきて、とても怖い!!」
ある意味彼らしさを失っていないことに、汐は少し安堵した。
「何座ってんだこいつ?気持ち悪い奴だな」
「お前に言われたくねーよ猪頭!目の前のあの山から何も感じねーのかよ!?」
善逸が目の前の山を泣きながら指差し、三人は振り返って山を見上げる。
うっそうと木々が生い茂る山は、夜の闇に包まれているせいか一層不気味に見えた。
「しかしこんなところで座り込んでても・・・」
「やっぱ気持ち悪りぃ奴」
「気持ち悪くなんてない、普通だ!!俺は普通で、お前らが異常だ!!」
「あんたの普通をあたしたちに押し付けないでよ」
怯える善逸とそうでない者たちの押し問答が少し続いたとき、汐と炭治郎は何かを感じ振り返った。
何か妙な感じがする。汐がそう感じた瞬間、彼女の足は自然と山の方へ向かっていた。それに合わせるように、炭治郎も後を追う。
その後ろから伊之助と泣きながら善逸もついてくる。そしてしばらく走ったその先には。
人がひとり、地面にばったりと倒れ伏していた。
よく見るとその人は右手に刀を持ち、隊服を着ている。鬼殺隊士だ。
彼は汐達の姿を見ると、涙を流しか細い声で「助けて・・・」と言った。
「大丈夫!?何があったの!?」
汐と炭治郎が隊士に駆け寄り、手を伸ばそうとした瞬間。
キリキリという奇妙な音と共に、彼の体は不自然に浮き上がり山の方へ文字通り引っ張られていく。
消える寸前、彼は引きつった声で「繋がっていた・・・!俺にも・・・!」という言葉を残し、助けを求めながら山に吸い込まれるようにして消えてしまった。