第37章 蜘蛛の棲む山<壱>
「馬鹿じゃないの!?切り火だよ!お清めしてくれてんの!危険な仕事に行くから!!」
善逸はそのまま切り火の意味をかいつまんで伊之助に説明する。説明が壊滅的にへたくそな炭治郎と比べて、彼の言い方はとても理にかなっていてわかりやすかった。
ようやく伊之助の興奮が収まったころ、老女は四人に向かって優しげな声で語り掛けるように言った。
「どのような時でも誇り高く生きてくださいませ」
――ご武運を・・・
そんな彼女に、汐、炭治郎、善逸は再び頭を下げる。伊之助はまだ理解できないのか不思議そうに三人を見ていた。
そして炭治郎を先頭に、汐、善逸、伊之助の順で走り出す。その際、伊之助は何度か老女の方を振り返った。
彼女は四人が見えなくなるまで、ずっと頭を下げて見送るのだった。
那田蜘蛛山へ向かう道のりを、四人は軽快な速度で走っていく。そんな中、伊之助が走りながら前の三人に唐突に問いかけた。
「誇り高く?ご武運?どういう意味だ?」
そんな伊之助を見て善逸は彼が何も知らないことに、呆れたような顔をする。そんな善逸を見た汐は、お前が言うなとでも言いたげな表情をした。
「そうだなぁ。改めて聞かれると難しいな。誇り高く・・・『自分の立場をきちんと理解して、その立場であることが恥ずかしくないように正しく振舞うこと』かな?」
「なんだか余計にややこしくなってない?要するに自分の言動行動にきちんと責任を持てっていうことじゃない?」
「ああ、そういう解釈もあるな。それと、あのおばあさんは俺たちの無事を祈ってくれているんだよ」
炭治郎と汐が自分の言葉でそれぞれ説明するが、伊之助はわけがわからないと言った様子でさらに口を開く。
「その立場ってなんだ?恥ずかしくないってどういうことだ?責任っていったい何のことだ?」
「それは・・・」
「正しい振舞って具体的にどうするんだ?なんでババアが俺たちの無事を祈るんだよ?何も関係ないババアなのになんでだよ?ババアは立場を理解してねえだろ?」
矢継ぎ早に紡ぎ出される伊之助の質問に、炭治郎は口を一文字に結ぶとそのまま急加速した。
「あ、逃げた!こら待て炭治郎!あたしに押し付けんな!」
そんな彼の背中を汐が足を速めて追いかけ、そんな二人に闘争心に火が付いた伊之助が追いかける。そんな三人を最後尾の善逸が情けない声を上げながら追いかけた。