第37章 蜘蛛の棲む山<壱>
ある日の朝。四人の診察に来ていた医者は彼らを集めてある事実を告げた。それは、四人の怪我が完治したことであった。
その言葉に汐と炭治郎の顔に笑みが浮かび、善逸と伊之助はそんな二人を怪訝そうな顔で見つめた。
医者が帰路についた昼下がりの頃。四人の前に汐と炭治郎の鎹鴉が飛んできた。二人がそれぞれの鴉を手に乗せると、二羽はそれぞれ鳴き出した。
「カァ~カァ~。緊急ノオ仕事デス~。緊急事態デス~」
「北北東。次ノ場所ハ北北東!四人ハ【那田蜘蛛山】ヘ行ケー!那田蜘蛛山ヘ行ケー!」
二羽の鴉はそれだけを告げると、窓の外へ飛び去ってしまった。ソラノタユウが緊急と言っていたと言事を踏まえても、ただ事ではないことは確かだった。
四人はすぐさま隊服に着替え(伊之助はズボンのみだったが)、身支度を整える。久しぶりに袖を通した隊服は、心なしか以前よりも体に吸い付く様にぴったりと収まる。
汐は姿見を見ながら髪を整え、そして玄海の形見の鉢巻きをしっかり締め直した。
「汐、早く早く」
玄関に向かうと既に炭治郎たちが外に出て待っている。汐は慌てて履物を履くと三人の後を追った。
「では行きます。お世話になりました」
炭治郎は見送りに出てくれた老女に向かって深々と頭を下げる。それに合わせて汐と善逸も頭を下げるが、伊之助は礼もせず三人を見た。
老女も彼らにこたえるように深々と頭を下げる。そして頭を上げると、袂から火打石を取り出した。
「では、切り火を・・・」
「あ、ありがとうございます」
炭治郎がそういうと、伊之助を除く全員が老女に向かって背を向ける。伊之助は不思議なものを見るように、老女に顔を向けた。
老女が火打石を二回打ち鳴らすと、カチカチという音と共に火花が飛び散る。それを見た伊之助は
「何すんだババア!!」
いきなり大声を上げて老女に殴りかかろうとし、そんな伊之助を炭治郎と汐が抑え、老女の前に善逸が守るように立ちはだかった。